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横浜地方裁判所 平成元年(ワ)1204号 判決 1992年1月22日

原告

八嶋亮太

被告

クローバー運輸株式会社

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告に対し、金三〇二九万二七八五円及びこれに対する昭和六一年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し、金五五六三万三〇六〇円及びこれに対する昭和六一年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という)の発生

(一) 発生日時 昭和六一年五月二二日午前八時二三分ころ

(二) 発生場所 東京都世田谷区砧公園一番地先首都高速道路三号線(以下「本件事故現場」という)

(三) 加害車両 被告鈴木広志(以下「被告鈴木」という)運転の普通貨物自動車(横浜一一い六三八三)

(四) 被害車両 原告運転の自動二輪車(品川さ九六四一)

(五) 事故態様 原告が被害車両に乗車して、渋滞中の本件事故現場の道路上り車線の第一車線の右側を進行中、被告鈴木が加害車運転席の右側ドアを開けたため、右側ドアが原告の左脇腹部から胸部に接触し、転倒した。

2  原告の受傷及び治療の経過等

(一) 原告は、本件事故により脾臓破裂、左腎臓破裂、左第四指・右第三指・右第三中手骨及び助骨骨折の傷害を負い、日産厚生会玉川病院に昭和六一年五月二二日から同年六月二五日まで、同年八月一六日から同年八月二七日まで、同年一二月二一日から同年一二月二二日まで、昭和六二年一月二六日から同年二月二一日まで及び同年五月九日の合計七七日間入院し、脾臓・左腎臓摘出手術等の治療を受けた。また、同病院で、昭和六一年六月二六日から同六二年一二月二九日までの間(実日数三〇日)通院治療を受けた。

(二) 原告は、右のような治療を受けたにもかかわらず、右傷害は<1>腸管癒着による通過障害、腸閉塞症状の存在<2>右第三指遠位指節関節の強直という障害を残して昭和六二年一二月二九日症状が固定し、右後遺障害は自賠責保険調査事務所により自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表の併合七級と認定された。

3  責任原因

(一) 被告鈴木は、右後方の安全を確認して右側ドアを開けるべき注意義務を怠り本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告クローバー運輸株式会社(以下「被告会社」という)は、加害車両の使用名義人として登録されており、被告鈴木を運転手として使用し、加害車両によりその義務に従事させていたものであるから、加害車両を自己のために運行の用に供していた者であり、自賠法三条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

(三) 被告会社は小規模な個人会社であるところ、被告田尾嘉夫(以下「被告田尾」という)は、被告会社の代表取締役であり、また道路運送法にいう運行管理者であつて、被告会社に代わつてその事業を監督すべき立場にあつたから、民法第七一五条二項に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

4  原告の損害

原告は、本件事故により、次の損害を被つた。

(一) 入院雑費 九万二四〇〇円

一日一二〇〇円の割合による入院七七日分の雑費

(二) 傷害慰謝料 二〇〇万円

(三) 逸失利益 四九七三万〇六六〇円

原告は、本件事故当時、マニユフアクチユラース・ハノバー証券会社(以下「ハノバー証券」という)東京支店に勤務し、年収七〇八万五七九五円の収入を得ていたが、本件後遺障害により症状固定時の二四歳から六七歳まで四三年間(ライプニツツ係数一七・五四五九)、少なくとも労働能力の四〇パーセント喪失したものであり、その逸失利益は四九七三万〇六六〇円となる。

(四) 後遺障害慰謝料 八〇〇万円

5  損害の填補 九四九万円

原告は、本件事故につき、加害者の自賠責保険から九四九万円の支払を受けた。

6  弁護士費用 五三〇万円

原告は、原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の追行を委任し、その着手金として三〇万円を支払い、報酬として判決認容額の一〇パーセント相当額を支払う約束をした。

7  よつて、原告は、被告らに対し、以上の損害合計五五六三万三〇六〇円及びこれに対する本件事故日である昭和六一年五月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実及び同3の(一)、(二)の事実は認める。

2  同3の(三)は争う。

被告鈴木は、被告会社の純然たる従業員ではなく、加害者両を実質的に所有し、疎外渋沢倉庫株式会社の注文を受け、その指示に基づいて運送に従事し、勿論加害車両の駐車場賃料、燃料費等の経費も負担していたものであつて、被告会社は、被告鈴木に対し外注支払として運送費を支払つていたにすぎないから、被告田尾は被告鈴木に対し具体的な指揮監督をしていないから、代理監督者としての責任を負わない。

3  同4は知らない。

4  同5は認める。

5  同6は知らない。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故の発生については、原告にも、いずれも渋滞中の第一車線と第二車線の境界線付近をまたがり、時速三五キロメートルを越える速度で走行し、また前方注視義務を怠つて進行した過失があつたから、原告の損害の算定にあたつて斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故発生)の事実並びに同3の(一)(被告鈴木の責任原因)及び(二)(被告会社の責任原因事実)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  次に、請求原因3の(三)(被告田尾の責任原因)について判断する。

1  成立に争いのない乙第三号証の4、第四号証、被告兼被告会社代表取締役田尾嘉夫本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  被告会社は、荷物梱包に関する業務等を主たる目的とする資本金一五〇万円の会社で、二トントラツク、四トラツク合わせて二五台を保有し、また運転手を約二六人を雇用しており、被告田尾は被告会社の代表取締役であり、被告会社保有車両の運行管理者の地位にある。

(二)  「被告会社の代表取締役である被告田尾は、昭和六〇年一一月頃、訴外渋沢倉庫株式会社(以下「渋沢倉庫」という)から、被告会社を介して被告鈴木に渋沢倉庫の運送の仕事をさせたいので、同被告を被告会社の従業員として雇用してほしい旨の依頼を受け、渋沢倉庫との間で、同被告を使用するための契約を結び、同被告を被告会社の従業員(運転手)として雇用した。

そして被告会社は、陸運事務所に対し、被告鈴木が実質的に所有していた加害者両の使用者名義を被告会社名義に登録した。

(三)  被告会社に雇用された被告鈴木は、右の雇用の経緯から、本件事故当時まで渋沢倉庫からの依頼による運送の仕事以外の仕事はせず、自宅近くの駐車場を借受けて加害者両を保有し、自宅から直接渋沢倉庫に赴き、渋沢倉庫の指示に基づき運送業務に従事していた。また加害車の車検、修理は渋沢倉庫の指示に基づいておこない、被告会務社はこれらに関与しなかつた。

他方、被告鈴木は毎月一回、被告会社に運転日報を提出し、被告鈴木は、その日報に基づいて、渋沢倉庫から被告会社に送金された運送賃から事務経費を控除した金員を、被告鈴木に対し、給料として支払つていた。

(四)  本件事故当日、被告鈴木は、自宅から加害車を運転して渋沢倉庫に赴き、渋沢倉庫の指示により、荷台に鋼管を積み、栃木県小山市に向かつていた際、本件事故現場において、右後方の安全確認を怠つた過失により、原告に傷害を負わせた。

(五)  本件事故後、被告鈴木は、渋沢倉庫から運送の仕事を断られたため、一、二か月間、被告会社の運送の仕事をしていたが、その後加害車を置いて所在不明となつた。

2  以上の事実によれば、被告鈴木は専ら渋沢倉庫の依頼及び指示に基づいて運送の仕事に従事し、これ以外の被告会社の運送の仕事に従事していなかつたものであり、被告会社から独立した立場にあつたと認められなくもないが、他方、同被告は、本件事故当時、被告会社に毎月、運転日報を提出し、また被告会社から給与を支給されていたものであるから、被告会社の被用者であつたと認めるのが相当であり、また本件事故は、被告会社の事業の執行中に惹起したものと認められるから、被告会社は民法七一五条一項の責任を負うといわなければならない。」

「そして、被告田尾は被告会社の代表取締役かつ運行管理者であり、具体的に、被告鈴木から運転日報の提出を求めて管理し、これに基づいて給与の支払をしていたものであるから、被告鈴木の選任または監督をなす地位にあつたというべきであり、被告鈴木が渋沢倉庫の指示を受けて運送に従事していたとはいえ、これは事実上のものにすぎず、右認定の妨げとはならない。

3  そうすると、被告田尾は民法七一五条二項に基づき、後記原告の損害を賠償すべき責任がある。」

三  そこで、原告の損害について判断する。

1  入院雑費 七万七〇〇〇円

原告が日産厚生玉川病院に七七日間入院したことは当事者間に争いがなく、経験則上、入院中の雑費は一日当り一〇〇〇円を要すると推認されるから、右期間中の入院雑費は七万七〇〇〇円となる。

2  傷害慰謝料 一三〇万円

原告の傷害の部位・程度、入・通院期間等の事情を勘案すれば、本件事故により受傷した原告が受けた精神的苦痛を慰謝すべき金額は一三〇万円をもつて相当と認める。

3  逸失利益 三四七二万〇三九五円

請求原因2の(二)の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在と成立に争いのない甲第二号証、成立に争いのない甲第三号証及び原本本人尋問の結果によれば、本件事故当時、原告は、ハノバー証券に勤務し、年収七〇八万五七九五円の収入を得ていたこと、原告は、脾臓を摘出されたことから、疲れやすく、病気に対する抵抗力も弱まり、月平均二、三日、欠勤しており、また腸管癒着による通過障害によつて腹痛発作を起こし勤務できないことがあること、他方、原告は、本件事故後もハノバー証券に引続き勤務し、事故後の原告の年収は本件事故当時より増加していることが認められる。

以上の事実によれば、原告は、本件事故後、事故前を上回る収入を得ており、少なくとも現時点までは後遺障害による逸失利益の損害は発生していないといわなければならないが、他方、原告は、現在、右後遺障害により、労働能力に制限を受けていることが明らかであり、また後遺障害の内容等に照らし、将来、労働能力の低下により、収入の減少をきたすものと考えるのが相当である。そして右認定の後遺障害の内容・程度に照らすと、原告は、本件口頭弁論終結時(二八才)から六七才までの間、その労働能力の三五パーセントを喪失するものと認めるのが相当である。

そこで、ライプニツツ方式により中間利息を控除して原告の逸失利益を計算すると、次のとおり三四七二万〇三九五円(円未満切捨)となる。

七〇八万八七九五円×〇・三五×(一七・五四五九-三・五四五九)=三四七二万〇三九五円

4  後遺障害慰謝料 八〇〇万円

後遺障害の内容・程度その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すると、後遺障害によつて原告が受けた精神的苦痛を慰謝すべき金額は八〇〇万円をもつて相当と認める。

5  合計

1ないし4の合計額は四四〇九万七三九五円となる。

四  過失相殺について

1  成立に争いのない乙第三号証の二ないし六、一〇、原告本人尋問の結果の結果によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  本件事故現場付近の道路状況等は別紙現場見取図(以下「見取図」という。)記載のとおりであり、本件事故当時、本件事故現場の道路は二車線とも車両が渋滞しており、加害車両を運転していた被告鈴木は、第一車線の見取図<2>地点で停車していたが、前方注視を怠り、前車が発進したものと軽信して発進し、見取図<×>地点で停車中の前車に追突した。そこで、被告鈴木は降車するため、右後方の安全を確認せず、いきなり右側ドアを開けたところ、見取図<×>地点で、第一車線と第二車線の境界線付近を走行してきた被害車のハンドルの左側及び原告の左胸部にドアの先端部を接触させたうえ、被害車を第二車線を進行中の車両に衝突させて転倒させた。

(二)  他方、原告は、第一車線と第二車線の渋滞車両の間隔が約二・二メートル程あつたことから、被害車両を運転して、第一車線と第二車線の境界線付近を、時速約三〇ないし四〇キロメートルの速度で進行していたところ、加害車の右後部付近に達した際、加害車の右側ドアが開いたため、ハンドルを右にきつて衝突を避けようとしたが間に合わず、ドア先端部に接触した。

2  以上の事実によれば、本件事故の発生につき、原告にも渋滞中の第一車線と第二車線の境界線付近を進行した過失があるというべきである。そして被告鈴木は右後方の安全を確認しないで、加害車両の右側ドアを開けた過失があることは当事者間に争いがないから、双方の過失の内容・程度その他本件に顕れた一切の事情を総合して勘案すると、その過失割合は被告鈴木が八五パーセント、原告が一五パーセントと認めるのが相当である。

そこで、原告の三の5の前記損害賠償請求権の全額から右の割合による減額をすると、三七四八万二七八五円(円未満切捨)となる。

五  損害の填補

請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

したがつて、右四の金額から填補を受けた九四九万円を控除すると、原告が請求し得る金額は、二七九九万二七八五円となる。

六  弁護士費用 二三〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として被告らに対し損害賠償を求め得る額は二三〇万円と認めるのが相当である。

七  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し各自、三〇二九万二七八五円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六一年五月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田博之)

別紙 <省略>

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